『あの日』に通じる過去の話。

10年以上前の、章との別れから。


章が旅立ち、私は英会話を習いはじめた。
『いつかノルウェーに遊びに行くには必要だろう』と考えたからだ。
さすがにノルウェー語はハードルが高かった。

中学の時の私達は、文通をしていた。

月に数回、章から手紙が届く。
届くと私は部屋で、小躍りするぐらい嬉しかった。
私も便箋に何枚も書いて、章へと送った。

それが変わったのが、高校生になってから。


高校生になり、私は携帯電話を持った。
それから私達の連絡ツールは携帯のメールになった。
まだガラパゴス時代の話である。

ノルウェーとの時差は8時間。
章がおはようのメールをくれる頃、私はおやすみのメールを送る。
毎日、何通かのやり取りをするのが日課になっていた。

内容と言えば「今日は暑い」とか「テストがあった」みたいな日常の下らないことであったけれど。