訪れるといつも、綺麗に花が生けられている。
章の親戚が、定期的に管理をしているのだろう。


杜若の花束を置いて、ばあば様の墓に手を合わせる。


目を閉じると、ばあば様の優しい笑顔が浮かんでくる。


「ばあば様、ごめんなさい」


私は過去との向き合い方がわからない。

章に、嘘をついている。


ボロボロと涙が溢れて止まらない。





「やっぱり、君だったんだね」

ドクン、と心臓が波打つ。


章、だ。

「親戚が教えてくれたんだ。いつもばあばの命日に、誰かが杜若の花を備えて行くって」

章はコツ、コツ、とゆっくり私に近付く。

「『あの日』君は病院から姿を消した。その理由ぐらいは聞いてもいいだろ?」



私はゆっくりと立ち上り、振り返る。


「なあ、エミ。君はなんで『まなみ』なんだ?」



空が綺麗な紫に染まる、黄昏時。

この場所には私と章の2人だけ。


‐もう、逃げられない。