「ミーティング始めるで!」





音楽室の扉が開いて、よく通る部長の声が響いた。





彼女の声に反応して、部員がパートごとに決められた席に着席する。





私の席は瑞穂の隣。瑞穂の隣の一番端の空席は、パートリーダーである雪乃(ゆきの)先輩の定位置だ。





どうやら先輩たちは学年集会か何かで遅れてきはるらしい。





受験生って大変やな、と他人事のように思う。





「今日の予定は、この後音だし、基礎合奏して個人練を1時間とります。来週本番で、個人練あんま取れへん思うので、今日の時間を有効に使ってください。」





個人練と呼ばれる個人で練習する時間は、本番が迫ればどんどん短くなってしまう。全員で合わせる合奏の時間を多く取らねばならないからだ。





特に私の通う学校は進学校のため、練習時間は他の学校に比べて少なかった。





「はる、私明日生徒会の方行くし。対面式の準備せなあかん。」





瑞穂は吹奏楽部と生徒会を兼部している。





高1のときは当日要員と言って、行事の日だけ手伝いに行っていたが、高2になると同時に正式に生徒会のメンバーになった。




正式にメンバーになるということは、生徒会に行く時間が多くなるということだ。たとえ吹奏楽部の活動がある日であっても。





瑞穂は生徒会の仕事が楽しくて仕方ないようで、私は最近もやもやしていた。




本人が楽しいのならもちろん、それに越したことはない。実際、生徒会にいるときの瑞穂の顔は輝いている。





…でも、吹奏楽部は?





心の片隅で、どんどん瑞穂が吹部から離れていく気がして、不安で仕方なかった。





きっといつか吹部一筋に戻ってくれる。





そんな日は二度と来ないやろな、と思いながらも祈らずにはいられなかった。