深呼吸をして校門をくぐる。

昨夜、もう一度、真凛と話しをしようと声を掛けたが、反応はなかった。
躊躇う気持ちは分かるが、双子の姉に打ち明けられないほどの出来事が彼女の身に起きていて、それが学校である可能性が高いのであれば根本的な解決をするしかない。

今日はかつて妹に嫌がらせをしていたという彼女たちに会うと決めていた。
吹っ切れて私も変わったから、仲良くして。そう声を掛けてみよう。
リスクはあるがただ淡々と毎日を過ごすよりはマシだと思う。


下駄箱で靴を履き替える。
登校初日、真凛の下駄箱が分からずに狼狽えた。少し前のことなのにもう懐かしく思える。
けれどその前にも何度か学校に来たことがあった。

受験日と、結果発表の日。


受験日は裕貴に付き添われて真凛と3人で来た。学校のことを裕貴に教えてもらいながら、期待に胸を馳せて試験に臨んだ。


「そういえば、此処で」

試験終了のチャイムを聞いた瞬間、虚しくも、結果は見えていた。当てずっぽうの解答で進学できるほど、世の中は甘くない。

あの日、試験の後片付けを手伝うという裕貴と、デートがあるらしい真凛とはこの廊下で別れた。
今思えば晴人さんと会う約束をしていたのだろう。

そして私は廊下の片隅にある2人がけのベンチで、ひとり落ち込んでいたんだ。

帰る気力もなく、ただ座っていた。

一時間くらいそうしていたことを、今でも鮮明に覚えている。
気付いた時には涙を止められず、情けない己への苛立ちだけが溢れていた。


「…懐かしいな」

音楽室前にあるベンチになんとなく座ってみる。
まだ登校している生徒が少ない朝の時間帯の校舎は静かすぎて、少し不気味だ。

この世界に私だけが取り残されている、そんな気持ちになる。


「あの時もそうだったな」

封印した記憶が蘇り、また少し後ろ向きになる。


私だけ不合格を突きつけられた勉学でも、
はつ恋の人も真凛が好きという恋愛面においても、
やはり妹には到底敵わずに敗北者のままだ。

私の世界はダメなことばかりで、本当に嫌になる。