嘘ごと、愛して。



スエットに身を包んだ正義はリビングの扉にもたれかかるようにして立ち、その顔は赤みを帯びていた。


「姉貴、仕事に行けよ」


風邪のせいかいつもより無愛想だ。



「病人の分際でお姉様に命令すんな」

「晴人、お見舞いに来た親友への労いの言葉がまず先だろう」


「姉貴、仕事あるんだろ」

鼻をすする音がする。
正義の視線はキッチンに向いていて、ソファーに座る私には気付いていないようだ。挨拶したいがそんな雰囲気でもないので黙って見守ることにする。


「いらない気遣いするくらいなら早く治せよ」

「もう治ってるよ!」

お姉さんの口調も荒くなってきた。
もしかして仲が悪いのかな…。


「熱のせいで視野が狭くなっている正義くん。お見舞いに来たのは私だけではないよ」


やんわりとした口調で2人の間に割り込んだ晴人さんは私を見た。


「村山…」

晴人さんの視線を追うように、正義も私を視界に捉えたようだった。やっと。

「お邪魔してま…」


「お前も、帰れ」


想像していた挨拶と違う。

冷たく言い放たれて、胸がきりきりと痛み出した。気のせいかもしれないが心臓の鼓動が早くなった気がする。


どうやら正義はご機嫌ナナメらしい。
いつも笑いかけてくれる彼からは想像もつかない程、強い口調だった。


「お見舞いなんて、迷惑なんだけど」


真っ直ぐに私を見てそう言う彼は、いったい誰だろう。
私は、こんな正義を知らない。