「お、正義!なに朝から、口説いてんだよ」


教室のドアからひょいと顔を覗かせた男子生徒は私たちの会話を聞いていたようで、大げさな反応を示します。



「しかも、お前がフッた真凛ちゃんじゃん!」


どうやら妹のことを知っているらしい。
坊主頭に眼鏡。確か1年生の時は同じクラスでなかったはずだけど…。誰?

まぁ、この手の話題はすぐに広まってしまうから仕方ない。


「…柴崎、黙れ」


「もしかして、勿体ないことしたと思ってるわけ?」

柴崎と呼ばれた生徒は、好奇心丸出しで私を見る。つま先から頭まで、ジロリと。

正直、不愉快だった。



「せめてヤッてからにすれば良かったのに〜」




抗議しようと口を開きかけ、また閉じる。

……この手の話題は苦手だ。





「柴崎、黙れ」



先程より低い声には正義の苛立ちが含まれていた。


「それ以上、言ってみろ。前歯の一本でも折ってやるよ」


「ほ、本気にするなよ」


柴崎は手を左右に振りながら、慌てて否定した。


柴崎を睨みつけた正義は、笑みを消して、
彼の襟首を掴む。

その目は笑っていない。


「くだらないこと言ったら、殴るよ」



クラス中が私たちのことを見ていた。

教室の中に入れずに廊下で立ち往生している生徒もいるが、空気のように傍観していた。



そしてそれから、誰一人、
私たちのことをからかう者はいないのだ。