教室の場所が分からないとは言えないので、正義の後に付いていく。


ふと廊下の窓から校庭を見る。
明日の入学式の準備をする生徒会の中に、裕貴の姿があった。

入学式の看板を校門まで運ぶ裕貴を目で追う。



同じ学校に彼がいる、なんだか妙な気持ちになった。


「どうしてアンタはうちの学校を受験したの?」


数歩前を歩く正義は、唐突に質問を投げてきた。



ーー私立桜塚高校。
名門の進学校で、国立大学への進学率は断トツだ。全国模試で良い成績を上げる者も多く在籍している。

賢い真凛は裕貴の後を追うように、桜塚に入学した。


しかし、私、村山志真は、

ーー受験に失敗。




実力不足だった、それ以外になんの言い訳も思い付かない。

恥ずかしい思い出。




「特に理由なんてないよ。名門だしね」


桜塚でなくても良かった。

真凛に自分は劣らないことを証明するために、
それだけの理由で、受験したから。


結果は見事に、惨敗だったけど。




「貴方は?」


私は一生、妹を追い越すどころか、
隣りに立てやしないんだ。

そう踏ん切りをつけるには良い経験だったのかな。


「俺?俺はさ、」


教室に入る手前で立ち止まった彼は、振り返り、平然と言ってのけた。


「アンタと出逢うため」


「はい?」


窓の外の裕貴から視線を外し、
慌てて彼の表情を伺うと、
その口元は少し笑っていた。