「お姉ちゃんお菓子作るのが上手くてね。手伝ってもらったというよりほぼ作って貰っちゃった。だからね、正義にあげる」


「なんだそれ」


赤いリボンを解き、真凛は箱の中身を俺に見せた。

ハート型のチョコレートに、"マサヨシ"と白いペンで書かれ、文字の周りにはお花やハートなどが描かれていた。

本命チョコと受け取ってもおかしくない。


「これ描いたのもお姉ちゃん。正義のことが好きだって嘘ついて、描いてもらったの。今年あげたチョコは、これひとつ」

「はぁ?」

「いい?勘違いしないで?これは私からじゃなくて、お姉ちゃんからね」

「意味わかんねぇー」

「だって。正義、お姉ちゃんのこと好きでしょう?」


はぁ?
全然、話が見えてこない。


「正義、試験日にお姉ちゃんのこと見たって言ってたじゃん。それからお姉ちゃんの話をする時、すごい熱心に聞いてくるから、気になってるのかなって」


「…俺がか?」

「無意識?一目惚れしたのかって思ってた」

「はあ?なんだそれ、馬鹿か」

「ごめんね、早く志真に会わせたかったんだけど、色々あって、なかなか実現してなくてごめんね」


突然始まった嫌がらせを止められなかった不甲斐なさと。
晴人に迷惑をかけたくないと自ら別れを告げた真凛の力になりたくて、真凛の傍にいることにした。彼女に馬鹿な男が近付かないよう牽制する意味も込めて。


「そんなこと、別にいいけどよ…一目惚れとか、そんなんじゃないよ」


「お姉ちゃんに彼氏がいないか、気にしてたくせに」


「してねぇよ」


俺のために作られたチョコ。
貰うには気が引けるが…


「まぁアンタの姉貴からなら、受け取るわ。断る理由もないしな」


「うん、そうして」


真凛からチョコを受け取る。
持ってみると随分と重い。


「言っておくが、お返しはないからな」


「ケチくさー」

笑い合う。

笑い合えるうちは、まだ大丈夫だと思っていた。