「私も真凛が好きだから、安堂くんの気持ちは痛いほど分かる。けれど強迫はよくないと思う」

「僕が真凛を脅しているとでも言いたいの?ただの忠告だよ」

「彼女の許可なく触れることも、許されない」


ワックスがかけられたつるつるの床を見下ろして2人の会話を聞く。

辛い。

大好きな裕貴が責められていることも、彼がそこまで追い詰められていたことに気付かなかったことも。

姉としても幼馴染としても、私は誰も守れていない。


「幼い頃から触れ合ってきた。同じ布団で寝て海にも一緒に行って、体調が悪い時には着替えも手伝った。今更、真凛に許可をとる必要はない」

そうだね。
遠い昔から、私たちはずっと一緒だったもんね。


「真凛をいくつだと思ってる?もう立派な女性で、幼い女の子ではない。例え幼馴染でも許されないことがあるんだ」

「……ああ、確かにそうだね。真凛は素敵な女性になった。ますます好きになっていくよ。昔から決めてたんだ、真凛をお嫁さんにするって」

「昔見た夢をいつまでも追い求めずに、現実を見なよ。真凛は安堂くんに異性としての一切の好意を持っていないんだよ」

晴人さんは冷静だった。
裕貴の話を途中で遮ることもせず、きちんと向き合っていた。

私は向き合えない。
愛に敗れ傷付いた裕貴を直視できずにいる。