「サボり?」

「そっちこそ。先生が早退して自習になったの」

「俺は微熱あるから」

体温計を器用に指先でくるくると回しながら、ニヤリと彼は笑った。

「じゃぁ、さっさと帰れば」

「じゃ、一緒に帰る?」


テンポの良い会話の相手は、鈴木正義。
マサヨシと読むらしいが、皆、彼のことをセイギと呼んでいる。
クラスにもう一人、鈴木という名字がいるので、私も心の中で、セイギと呼び捨てにしてるけど。

なんで心の中かって?
誰かを指す言葉なんて、お前とか、君とか。そんな冷たい単語で、代用できるからだ。


「一緒にどっか行こうよ」



正義は相変わらず笑みを浮かべている。
なにが、そんなに楽しいのか。

この世に、楽しいことなんて、
少なくとも今の私には見つけられない。