「陸斗、あたしはどこにもいかないから安心して。陸斗にもっと多くの色を見せてあげたいの。だから…」



ピアノだけは続けさせてくださいとは言えなかった。



陸斗はイ短調が嫌いらしくてピアノの話をすると離れて行ってしまいそうだったから。



「オレの世界にはやっぱり色とか必要ない。だから、ずっと傍にいろ。」



陸斗は今にも泣きだしそうで、消えてしまいそうな小さな声であたしに言う。



でも陸斗の願いをあたしは叶えてはあげられない。



あたしは陸斗に色のある世界を見せてあげたいんだ。



「ねえ、陸斗。今日はもう帰ろう?」



どうしてもここには居づらくて、あたしは陸斗の手を引き部屋を出た。



陸斗は部屋を出た後もずっとあたしの制服の裾を掴んで話そうとしなかった。



駅で切符を買う時も、電車に乗るときも。



陸斗があたしの制服の裾を話してくれないと女性車両には乗ることができないんだけどな…。



今日だけの我慢だと思い、あたしはいつも乗っている女性専用車両を諦め陸斗と一緒に同じ車両に乗った。



案の定、あたしと陸斗が乗った車両は人がおしくらまんじゅう状態で抱きしめあう形になってしまう。



人の視線が気になるけれど陸斗が心配なので仕方がない。