後戻りなんてあたしはちっとも考えていない。



陸斗にたくさんの色を見せてあげたいのもあるけれど、向こうにある景色を見てみたいから。



例え、見えた景色がなにもない漆黒の闇だったとしても…。



あたしはその覚悟を優月くんに伝えるため、真っすぐ優月くんを見つめて語った。



「戻ることは考えていません。あたしはこの曲が弾きたいんです。」



優月くんの瞳に映るあたしを色で例えるとどんな色なのだろうか。



「そっか。恵美ちゃんの意思は変わらないんだね。」



優月くんは無邪気に笑ってくれていたけれど、無理しているように見えた。



優月くんがここまでモーツァルトのきらきら星変奏曲を反対するのはどうしてだろう。



そして、優月くんの過去になにがあったのか聞きたいけれど、あたしが足を踏み入れてはいけないものがあるような気がして口に出すことができない。



「恵美ちゃん、そろそろ戻ろうか。」



優月くんはあたしを避けているように感じたけれど、時計を見ると本当に登校時間がギリギリだったのであまり気にはしなかった。



「あと。俺、今日用事があるから放課後は陸斗のところにでも行ってきな。」



あたしの先を歩いている優月くんはもうすっかり人が変わってしまって少し乱暴に話す。



でも、あたしの名前を呼んでくれるということはあたしのことを覚えてくれたのだろうか。



「うん…。」



少し嬉しくて、小さく返事をしてみせる。