傘に入れてくれますか?

一人の先輩が優月くんへ楽譜を渡す。



「リクエストいつもありがとうございます。」



朝とは違って笑顔で楽譜を先輩から受け取る優月くん。



今、あたしが割り込んではいけないところだったのかな?



そう思い、あたしはその教室を出て行こうと後ろのドアノブに手を掛けた。



「でも、ちょっと待っててね。」



優月くんは先輩たちを置いてあたしの方へと向かってくる。



「ここ来るの、はじめてだよね?」




この人、演奏を聴きに来る人のこと一人一人覚えているんだ…。



「リクエストとかあったら言ってね。演奏できる範囲ならなんでも弾くから。」




優月くんの言葉に安心し、教室の奥の方へ進んで行き先輩たちと並んでピアノの演奏を聴いた。



やがてピアノの演奏が終わり拍手が起こる。



先輩たちは満足したのか隅に置いていた鞄を手に取り、教室を出て行く。



残ったのはあたしと優月くんで…。



「君はないの?リクエスト」



にこやかにあたしへ聞いてくる優月くん。



あたしは今日ここに来た意味を思い出していた。



あぁ、そうだった…。