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陸斗にどうにかしてたくさんの色を見せてあげたい。
あの、ゆがんだ形の蝶を見た瞬間思ったんだ。
あたしはその日の放課後、ある場所へと向かっていた。
陸斗は今日、眼科に行くとかで約束がないわけだし、思いついたときに行かないと忘れてしまいそう…。
旧校舎の音楽室。
ここには立派なオルガンがあるらしく、とてもいい音が響いている。
陸斗といつも一緒に過ごしているあの部屋の隣にそこはあるらしい。
ここにあの人がいるのかな?
あたしは朝のことを少し思い出し、不安を抱えながらその扉を開く。
その部屋にはあたしとリボンの色が違う女子生徒、多分先輩が二人いて扉が開く音も気にすることなくオルガンの演奏に聴き入っていた。
オルガンを演奏しているのは今朝あたしが訪ねた優月くんで、あのときとはまるで別人に見える。
――パチパチパチ
丁度、一曲の演奏が終わり、先輩二人が優月くんに拍手をしている。
「秋梨くん。次、この曲お願いします。」