陸斗の言葉はどこか我慢をしているように聞こえる。


あたしは陸斗の言葉を否定したかった。でも陸斗に掛ける言葉が見当たらない。


「あっ、そうだ。恵美のために絵を描いたんだよ。笑ってくれ。」


陸斗はなにを言ってるの?どうしてこの状況でそんなことが言えるの?


陸斗は苦しそうな表情を隠すように後ろを向き、ガラス張りの壁に建てられたひとつの大きなキャンバスを前へ出す。


「恵美色の蝶だ。昨日、眠たかったからあまりうまく描けてないけど。」


オレンジに光る蝶。そのかたちは歪んでいて、水を含んだようになっている。


「雨の蝶…。」


思わずつぶやいてしまった。


この蝶に名前を付けるとしたら“雨の蝶”だと感じたんだ。