傘に入れてくれますか?

あたしの用事は告白なんかじゃない。


そう言いたいのに、言葉がなかなか出てこない。


どうして優月くんはこんなに冷たいのだろう。


「ごめんな。コイツ、ピアノがあるときとないときじゃ人が変わっちまうんだよ。」


そう言って優月くんの隣に座っていた男子が現代文のノートに描いた鍵盤の落書きを優月くんの前へ置く。


その瞬間だった。


「おれに何か用?言ってみな。」


優しくなった…。


あたしはその速さに驚いて言葉が固まってしまう。


「大丈夫だから言ってみな。今の優月は優しいから。」


優月くんの机にノートを置いた男子があたしへエールを送るように背中を軽く叩いた。


「あのっ、陸斗はこの時間どこにいると思いますか?どうしても陸斗のことが気になって…。」


優月くんはノートの鍵盤を左手で叩きながら考えている。


「うーん。今日は天気がいいから図書室から見える空でも描いてるんじゃないか。」


そう言って優月くんはノートに群青色のしおりを挟み、隣の席の男子に戻す。


そろそろ優月くんの魔法が解けてしまいそうな気がして、あたしはペコリとお辞儀をしてから教室を出て行った。


陸斗のいそうな場所がわかったのであたしは図書室へ走り出す。