「旭、まだ帰ってなかったの?」


優奈の声だ。やっぱりこのいつも一緒にいるメンバーの声が一番落ち着くな。


優奈の姿を探してあたしは駅の中で立ち止まった。


「やっぱり旭じゃん。旭も傘忘れたの?濡れてるよ」


塗れた制服をバラの花が刺繍されているハンカチで拭いてくれる優奈。


あたしもってことは、優奈の知ってる誰かも傘差すこと忘れたのかな?


「柏木がね、傘も差さないで大雨の中走ってたよ。二人してホント仲いいよね。」


ウソ…。陸斗が、どうして…


「優奈、陸斗どこにいたの?あたし、陸斗のこと置いて来ちゃった。探さないと…」


こんなこと聞いても困るよね?


でも、どんなに小さくても陸斗へつながるものがなんでもいいから欲しかった。


「マリと電話してた時だったから…。10分前にコンビニの公衆電話の前で、かな。」


コンビニの公衆電話の前…。10分前…。


かなり時間が経ってしまったな。


「旭、うちそろそろ帰るね。柏木見つかるといいね。ファイト、旭。」


優奈は腕時計をチラリと確認してニコリと笑いそう言った。


優奈は多分あたしと陸斗の事情を分かっていないだろう。


でも、ありがとう。あたし、頑張る。陸斗を探し出して謝るんだ。沢山の色を陸斗の心にあげるんだ。


あたしは駅を出て陸斗の傘を探した。