昨日、陸斗にヘアピンを買ってもらった店であのとき一目ぼれした傘を買う。


ちょっと高い買い物をしてしまったけれど、陸斗との短い恋の終わりに衝動買いをしたと思えば安いものだ。


あたしの髪に付けられているヘアピンも外す。


これでもう、あたしは元の世界に戻ろう。あの作り笑いをしてばかりのあたしに戻ろう。


あたしは駅の改札口へと独り歩いて行った。


その背中は失恋でもしたように見えるだろう。


「おい、待てよ。恵美!」


駅は多くの人が行きかっている。


今の声はきっとあたしの空耳だろう。陸斗があたしを追いかけてきてくれるわけがない。


頭の中に焼付いた声がどうしてもあたしを悲しくさせて苦しませる。


こんな時まで陸斗のことを想ってしまう自分が嫌だなぁ。