傘に入れてくれますか?

「でもさ、恵美はどうでもいいけど。この写真の背景がものすごく綺麗なんだ。モノトーンでもわかる。」



本当だ。あたしの後の景色だけはものすごく幻想的に見える。



けど、陸斗の見せてくれている写真は曇りのときに撮ったのであまり色がない。



多分、モノトーンの世界にいる陸斗にはこの背景に夢があるのだろう。



だからこそ、この背景の色は灰色がメインということを伝えられない。



「恵美、ぬり絵しててくれねぇか。恵美の世界の景色の色を教えてほしい。」



陸斗は部屋に散らかっていたよくできた方の絵を何枚か拾い集めてあたしに渡した。



色が見えない陸斗にはどんな色をつけていいのかわからないのだろう。



「色鉛筆ならあそこの引き出しに入ってるから好きなだけ使ってくれ。」



陸斗の性格を考えるとあれは色鉛筆を入れるためだけの引き出しなのだろう。



でも、それにしてはあの引き出しは大きすぎる気がするんだけど…。



あたしはそう思いながら、陸斗の描いたスケッチを踏まぬようにして陸斗が指差した引き出しへ近づいて行った。