傘に入れてくれますか?

「恵美、起きたのか。」



あたしの気配に気づいたのか陸斗はスケッチブックに目を向けたままあたしを呼んだ。



「うん。ちょっと眠れなくて…。」



できるだけそれらしい理由を言ったら陸斗も納得してくれるよね。



あたしはただ、陸斗の手の動きをじっと見つめていた。



「そっか。恵美が寝ているうちに絵の下書きしたかったんだけどな。」



陸斗は絵の下書きをしていたんだ。



よく陸斗の周りを見渡すと隣に陸斗のスマホが置いてある。



「オレだって天才じゃないんだ。だからどんなに綺麗だった景色でも忘れてしまう。いつもこうやってスマホのカメラで撮ってるんだよ。」



陸斗の絵を描く工程を初めて知った。



陸斗はあたしの前ではスマホなんか絶対に手にしないから意外だった。



「ほら、あった。この写真。」



陸斗がスマホに入っている一つの写真をあたしに見せてくれる。



「恵美、ぶっさいくだなぁ。」



そこに写っているのはフラッシュで目を閉じてしまったあたしで、写真を見ておかしそうに笑う陸斗が失礼に思う。