始まりがわかりやすいように優月くんが短い前奏を弾いてくれる。



この前奏が終わればあたしが演奏に入るんだ。



気合いを引き締め、鍵盤に指を置きいつでも弾けるように準備をする。



でも、どうしてだろう。



指が動かない。



指が動かない理由が緊張のせいではないとしたらどうしてだろう。



今は、本番だよ?陸斗がいるんだよ?



動け。動け、あたしの指。



この数十秒で何度願っただろう。でも、あたしの指は動かない。



優月くんごめんね…。



音は止めることはできなくて、あたしは今の優貴君にとっては迷惑でしかなくて…。



演奏をあたしのせいで台無しにすることはできないのであたしはオルガン部屋を飛び出した。



演奏を期待していた優奈も何が起こるか知らされていない陸斗も気持ちよくピアノを弾いていた優月くんも驚いてるよね?



でも、指の動かなくなったあたしには今は何もできないんだよ。



「恵美、どうした。」



陸斗はやっぱりあたしを心配して来てくれる。