傘に入れてくれますか?

今日もここに来てしまったな。



あたしが今一番心の落ち着く旧校舎のオルガン部屋。



いつもここには優月くんがいるのに今は変な感じがするな…。



「あれ?恵美ちゃん、ここに来てたんだ…。」



クラスの男友達を何人か引き連れて優月くんが姿を現す。



優月くんはいつもここでお昼を食べているんだ…。



「ヅッキー、この可愛い子ってもしかして…。」



「そう。朝にいつもピアノを教えてる恵美ちゃん。」



優月くんがあたしを友達に紹介しているようなのであたしも一礼する。



「恵美ちゃん、なにかあった?話聞くからあっち行こう。」



あたしの話なんて、優月くんの友達を置いてまでするものでもなくて…。



「大丈夫です。本当に大丈夫ですから。」



優月くんの手を強く振り払ってしまう。



ここにもいられないな…。



あたしはオルガン部屋を勢いよく飛び出していく。



本当にどこに行けばいいのだろう。



あたしの心地よくいられそうな場所を探して歩き回る。



制服のポケットに入れた手にあるものが触れる。



これ、まだ陸斗に返していなかったな…。



陸斗から最初にもらった陸斗の世界への合鍵と言うあたしの御守り。



早く返さなきゃと思っているけれど、返したらすべてが終わってしまうような気がして怖くてなかなか返すことができない。



陸斗、もう一度だけこの鍵を使わせてください。



今となってはこの鍵を使うこともあたしの中で罪に感じてしまっている。



これが最後。



この鍵を今使ったら陸斗に返そう。陸斗との関係を終わらせよう。



そしたら、あたしの心もすっきりするよね?



誰もいない廊下で大きく深呼吸をして部屋の鍵を開ける。