隣の部屋では優月くんがオルガンを弾いている。



それに合わせて口ずさむ優奈もいる。



陸斗は隣の音がうるさくて仕方ないのか。



あたしが邪魔という理由ではなかったので、少し安心するな。



――ガサッ



えっ、陸斗もう帰っちゃうの?



そんなことを言う資格、今のあたしにはなくて心の中で叫ぶ。



陸斗はキャンバスを部屋に立てかけたまま、鞄を持ち今日も絵具を数本中に入れて帰っていく。



今、あたしは陸斗を追いかけることも許されていない状態で…。



陸斗が出て行ったあと、鍵を閉めてあたしも移動しよう。



あたしにできることはそれくらいしかなかった。



今のあたしは陸斗にとって空気同然で、いてもいなくてもいい存在。



あたしが陸斗に声を掛けたって陸斗には届かない。



早くこの鍵、陸斗に返さないとな…。



この鍵を陸斗の下駄箱に入れて返すことはできるけど、この鍵を陸斗に返してしまったらもう終わりな気がしてなかなか返すことができない。



優月くんのところに今日も行こう。



陸斗の出て行ったドアを見つめそう思った。



あたしがピアノを上達させたら、陸斗もきっと色を取り戻してくれる。



未知の世界への挑戦だけど、信じていたかった。