傘に入れてくれますか?

「恵美、どうした。そんな顔して。」



陸斗は地面に座って泣いているあたしを見て驚いた顔をしている。



話したいけれど、今は無理だ。



陸斗はあたしを近くのベンチに連れて行き、温かい飲み物を渡してくれる。



「えーっ、夏だよ?夏なのに温かいのってどうなの?」



「仕方ないだろ、青も赤もわからないんだ。間違えるだろ。」



開き直って言う陸斗。



モノトーンの世界にいる陸斗には文字を区別するのも一苦労なんだな。



「夏でもホットコーヒー飲むだろ?冬でもアイス食べるだろ?それと同じだよ。」



陸斗は温かい缶の飲み物に口をつける。



「やっと笑ったな。よかった。これで事情が聞ける。」



これも陸斗のあたしを笑わせるための作戦だったんだ。すっかり騙されちゃった。



「で、なにがあったんだ。」



陸斗に問い詰められ、膝の上に置いている色鉛筆の缶を見つめる。



「オレンジ…。オレンジの色だけ残ってたの。陸斗、白買ってくるって言ってたよね?見えなくなっちゃったの?あたしの色」



「そうだ。オレンジの色鉛筆だけ透明で見えないんだ。」