一晩中泣き明かした。
私の目は、ぼってりと腫れ上がっている。

こんな状態では出社できないことはわかっていた。
会社には電話をし、体調不良だと言って、有給を取ることにした。私の声を聞いた課長は、風邪をこじらせたとでも思ったようだった。
「ゆっくり休みなさい。」と言っていた。

私と篤志は、同じ会社に勤務している。だから会いたくなかった。
篤志との楽しかった日々を思い出しては泣き、泣きながら思い出すを繰り返し、魔のループの真っ只中にいた。食欲もなく、何にもする気になれなかった。

今までに、失恋は何度か経験している。でも、プロポーズを受けた後に破局したのは初めて。うれしさが強かった分、今回のダメージは耐え難く辛かった。
もういい加減何とかしなきゃと思っても、何かをするたびに、篤志と過ごした日々を思い出してしまう。五年も付き合っていた彼を忘れることができるのかどうか、私は迷宮に追い込められたウサギのように暗い森の中をさまよっているようだった。

ふと、床に落ちていた雑誌に目をやると、サラ・ジェシカ・パーカーの記事が目に入った。
彼女が主演した映画で結婚式をすっぽかされた主人公が、友達と旅に出るというシーンがあったことを思い出した。

「そうだ、私もどこか行こう…。」

一度、自分をリセットしなくては何にもできない。
のそのそと、ノートパソコンを出して、ネットで検索した。
検索ワードは「失恋・離島・旅行」。
誰も私のことを知らないところに行きたかった。今すぐこの環境を変えなければと思った。
さまざまなページを見てはいるが、これといったところがない。リゾートなんかじゃなくていい。何にも考えなくて済むところ、そんなところに行きたかった。

しばらくぼーっとパソコンの画面を見ていると、まぶしい海と白い船の写真が目に飛び込んできた。
新潟県の佐渡ヶ島というところのようだ。ここなら篤志との思い出はないし、一人で考える時間もできる。

船に乗って本州を離れるというところに惹かれ、ここに行くことに決めた。
離島ではあるけど、船もかなりの便が出ているし、今から支度しても今日中には着ける。そう確信した私は、旅行カバンに荷物を詰め、東京駅へと急ぐことにした。