「行かないつもりだったんだけど、付き添いで強制的に」

「付き添い?」

「ナツメの上司が教授の知り合いらしい」


つまり、エスコートを強請るための電話だったのか、さっきのは。

会いに行かずに電話だけで話をつけたからいつもより長かったのか。

そして、会いに行きたくない程、エスコートが面倒なのか。


それを私の前で態度に出す。
その特別扱いは、嬉しくもあり複雑でもあった。


「それはそれは。ご挨拶ガンバッテください」

「お前は?」

「ん?行くって今、」

「ひとりか」


小さく笑ったのは、見くびられたのか、からかわれたのか。


「行けば知り合いがいるからいいの。お会いしたら私にもご挨拶よろしくね」


にっこりと笑って見せると、流すように返事を返される。

ここで、他の男の影を匂わせても意味がないのはもう知っている。


この男に、そんな手が通用しない。


「さて、私帰るけど」

「もう少し飲んでく」


そう。


軽く返事をして席を立ち、スプリングコートを羽織る。

カウンターでチェックを済ませて、慣れたように扉を開けると、聞きなれたウィンドウチャイムが軽やかに鳴る。