「なに泣いてんだよ」
ネクストバッターサークルに入る準備をしている大樹が大歓声が聞こえる中小声で呟きながら私の横に座った。
「泣いてないもん」
隠すように俯いてスコアを付ける私、強がりだ。
誰にも見えていないと思ったのに、さすがの幼なじみ。
私なんて見ないで、試合に集中しろ。
「ま、見てろよ。しっかり点稼いでお前を笑顔にしてやるから」
そう言い残してロジンを付けたバットを手に大樹はネクストバッターサークルに進んで行った。
2アウト1塁でバッターボックスに立った大樹は宣言通りライト方向へ大きな弧を描いたボールを放つ。
大歓声の中、駆け抜けてホームベースを踏む大樹。
ベンチに座っていた選手たちも大声をあげながら大樹の元へと走って行く。
その後ろ姿がとても眩しくて。
拭いきれない滴がさらにきらびやかに見せる。
私に向かってブイサインを送る大樹に満面の笑みを浮かばせて私もその方向へ走った。

