「…………え?」

思わず、二度見。
靴箱のとびらを閉じて。
もう一度ひらいて、三度見。
――やっぱりある。

『夕凪さんへ』

A4サイズのルーズリーフを、半分くらいに切り分けたのかな。
それが、二回くらい折りたたんであって。
可愛い柄のマスキングテープで、扉の内側に、止められている。

夕凪。
夕凪楓(ユウナギ カエデ)は、わたしの名前。
記憶力はあんまり自信が無いけど。
同じ苗字の生徒は、すくなくとも同学年にはいなかったはず。
じゃあ、やっぱりこれは、わたし宛ての。

(……春が、来ちゃった)

冬の昇降口に、ふわりと春風が吹いた心地。


だって、だってね。
この市立夢葉(ユメバ)高校に通って、早くも二年と十ヶ月。
この高校は、市の真ん中あたりに設立されていて。
そこから東西に。
対になるようにして、二つの中学校が建っているの。
わたしの通っていた、東中(ヒガシチュウ)……東夢(ヒガシユメ)中学と。
運動部なんかだと、よく練習試合の相手となる、西夢(ニシユメ)中学。
西夢は、通称、西中(ニシチュウ)。

その二つ。総じて、夢中(ユメチュウ)が。
夢葉高校の在校生の、大半をしめていたから。

つまりはどういう意味かというと。
中学から人気のない人間は。
そもそものモテの無さを、出会いでカバーするには難しい環境ってわけ。
まあ。
出会いのために進学したんじゃないから、良かったんだけど、別に。
良かったんだけどね。
嬉しいでしょ、普通に。
春が来たんだよ。
そう、飛び上がりそうになるのを、おさえつつ。

「……でもまだ、確定したわけじゃないからね」

ドキドキしながら。
そろりと、手を伸ばした時だった。


「――なにしてんの? 楓」


タイミング悪く、『彼』が現れたのは。