4/28 -サクラソウ- 花のような君に贈る想い

「それくらいのやる気を、この仕事でも見せてくれると有難いんだけどね」

にっこりと笑顔で差し出されたのは、昨日ボツをくらったプロットが表示されたタブレットだ。

「…お待たせしていて申し訳ありません」
「まあ、こっちとしては別にいいから、形式上だけ受け取っておいて。田上さんも時間かけるって言ってるし。でも、全然身が入ってないとなればさすがに一言くらいはね」

タブレットに表示されたプロットは、ここ最近で一番甘ったるい展開を綴った恋愛小説だ。
いや、なるはずだったものだ。

「あれ、そういえばコーヒー遅いね」

いつもならばすぐに運ばれてくるコーヒーが来ない。
不思議に思った石川が立ち上がったところで、部屋の扉が豪快に開いた。

「今日は俺が持ってきた特性ブレンドだ」

そう言って入ってきたのが、打ち合わせ参加者最後の1人である田上だ。
肉食っぽい顔をした白髪交じりの中年で、遅刻の常習犯で、和の今回の編集者だ。

「田上さん、何してるんですか…」

得意げな顔をした田上の背後で、困ったように頭を下げている女性社員がいる。

(可哀相に、給湯室に突撃されたんだろうな…)

和はぼんやりとそんなことを思いながら、立ち上がってその社員からトレイごとコーヒーを受け取る。

「あ、本崎先生っ、」
「いいですよ。頂きますので、仕事に戻ってください」
「なんだお前、優しいじゃねえか」
「田上さんも、いいから早く座ってください」

にべもない言い方をしても、田上は楽しそうにするだけだ。