どれくらい泣いたのか分からないけれど、外の雨音が小さくなったことに気がついた。
いつの間にか背中を撫でていた優しい手が、しゃくりあげる和の気持ちをやわらげた。
「…石川さんとの仕事の話が出てから、田上さんたちと会う回数が増えて、2人の会話の中で…ハルカ君がどんどん思い出になっているのに気づいたんです。
いつか私も、こうやって懐かしいみたいな顔をして、ハルカ君を過去のことみたいにする日が来るのかと思ったら、怖くなって…
ハルカ君をもっと強く感じていたくて、絵本を作ろうと思ったんです。
もう、幸せな物語なんか書けないくせに、どうしても、この不安な気持ちを落ち着かせたくて」
ココアのカップはとっくに宮前が取り上げて、窓際の机の上に置かれている。
そこは春佳のカップの定位置で、古い机の塗装がはがれて丸く型がついてしまっている。
「俺が協力する。だから、その想いは捨てなくていい」
ぼんやりとカップを眺めていた和が、真っ赤な目で宮前を上げた。
「そのままの想いで作ればいいんだ。今は悲しい物語しか作れなくても、何冊も作ってたらいつか幸せな物語ができるかもしれない。それまで、俺が協力する」
断言する宮前と視線は合わない。
だけど、温かくて、散々泣き喚いた体にじんわりとしみこんだ。
「…宮前さん、世話焼きなタイプですね」
足の踏み場もないほどに散らかったこの気持ちの整理を、手伝ってくれるという。
探していた何かが、簡単に出てくるかはわからないけれど。
「よろしくお願いします」

