4/28 -サクラソウ- 花のような君に贈る想い


和室に雨の匂いが漂っている。

こうやって季節を乗り越えていくごとに、この部屋から、春佳の気配が消えていく。


「何度ここに来ても、どんなに話しかけても、どこにもいなくてっ…

部屋の匂いも、服の香りも、絵の具もペンも、どんどん冷たくなって、ハルカ君はもういないんだって、戻らないんだっていうみたいで…」


この家に来るとき、本当はいつも少し怖かった。

毎年咲く桜が、紫陽花が、玄関先の竜のひげが、今年もあるだろうか。


あの頃のように、変わらないものがあるのか、いつも不安で、見えるたびにほっとした。


だけど。

その度に悲しかった。


「ハルカ君の部屋なのに、ハルカ君がいないなら、もういっそ…」


なくなってしまうのなら、それもありかと思った。


そう思った自分に愕然として、怖くて、どうしようもなくて、百恵になにも言えなかった。




だけど、本当は、


「嫌だよ…ハルカ君っ、どこにも、いかないで。一人にしないで。ここにいてよ、…だって、なんで、私だけ置いて…」



恋人ではなかったけど、確かに約束したの。


次の春、私が高校を卒業したら。



「好きだって、言ってくれるって…約束したのに」