和室に雨の匂いが漂っている。
こうやって季節を乗り越えていくごとに、この部屋から、春佳の気配が消えていく。
「何度ここに来ても、どんなに話しかけても、どこにもいなくてっ…
部屋の匂いも、服の香りも、絵の具もペンも、どんどん冷たくなって、ハルカ君はもういないんだって、戻らないんだっていうみたいで…」
この家に来るとき、本当はいつも少し怖かった。
毎年咲く桜が、紫陽花が、玄関先の竜のひげが、今年もあるだろうか。
あの頃のように、変わらないものがあるのか、いつも不安で、見えるたびにほっとした。
だけど。
その度に悲しかった。
「ハルカ君の部屋なのに、ハルカ君がいないなら、もういっそ…」
なくなってしまうのなら、それもありかと思った。
そう思った自分に愕然として、怖くて、どうしようもなくて、百恵になにも言えなかった。
だけど、本当は、
「嫌だよ…ハルカ君っ、どこにも、いかないで。一人にしないで。ここにいてよ、…だって、なんで、私だけ置いて…」
恋人ではなかったけど、確かに約束したの。
次の春、私が高校を卒業したら。
「好きだって、言ってくれるって…約束したのに」

