4/28 -サクラソウ- 花のような君に贈る想い


足が重たい。

雨が冷たい。


薄暗くなりぼんやりとしか見えない墓石の前で、和はしゃがみこんで手のひらを合わせる。


この場所が、なくなる訳ではない。


だけど、彼の家族が、彼をここではない遠くへ運ぶと決めたのなら、ここはきっと、彼の眠る場所ではなくなるのだ。


足を運んでも、祈りをささげても、声をかけても、ここに彼は眠っていない。


わかっている。

例え改葬したとしても、ここだって今まで春佳の眠っていた場所だ。

ただの石ではない。ただの名前ではない。


間違いなく、彼のいた証。


それでも。


「…"まだ若いから、この先にある出会いを無駄にしちゃいけない。

もっと出会いがあるから。"って、皆が言うの。
ハルカ君も、よく言ってたよね。

…ねえ、じゃあさ、私は、いつ生まれてくれば、ハルカ君との出会いに相応しい私で居られたのかな。

いつ生まれてくれば、いつ出会えば、ハルカ君を想っててもよかったのかなっ…、同じ年だったら、もっとずっと、一緒にいれたかな?ハルカ君のこと、どれだけ想っててもよかったのかな?…っ、なんで、なんで皆、」


どうしたら、よかったんだろう。


例えば同い年くらいであればよかっただろうか。

それとも、結婚でもできていればよかったのだろうか。


亡き夫を想う妻ならば、それは許されたのだろうか。



大切な人を失ってもなお、その想いが消えないのは同じなのに。



この4年間で、もう何度聞いたか分からない。


"若いんだから、新しい出会いがあるよ"


「…っ、お願い、まだっ…」


どうして、この場所で、ひっそりと想いを伝えているんだろう。


悔しくて、苦しくて、涙が出る。

悲しくて、寂しくて、胸が痛い。

墓前で涙する和を、訝しむ人はいない。だけど、和が春佳を偲ぶことを、誰も望んでいない。


その事実が、あまりにも辛かった。

忘れたくない。想っていたい。

新しい出会いなんかいらない。



雨が冷たい。でも、それ以上に心が痛い。


ただ、会いたい。