足が重たい。
雨が冷たい。
薄暗くなりぼんやりとしか見えない墓石の前で、和はしゃがみこんで手のひらを合わせる。
この場所が、なくなる訳ではない。
だけど、彼の家族が、彼をここではない遠くへ運ぶと決めたのなら、ここはきっと、彼の眠る場所ではなくなるのだ。
足を運んでも、祈りをささげても、声をかけても、ここに彼は眠っていない。
わかっている。
例え改葬したとしても、ここだって今まで春佳の眠っていた場所だ。
ただの石ではない。ただの名前ではない。
間違いなく、彼のいた証。
それでも。
「…"まだ若いから、この先にある出会いを無駄にしちゃいけない。
もっと出会いがあるから。"って、皆が言うの。
ハルカ君も、よく言ってたよね。
…ねえ、じゃあさ、私は、いつ生まれてくれば、ハルカ君との出会いに相応しい私で居られたのかな。
いつ生まれてくれば、いつ出会えば、ハルカ君を想っててもよかったのかなっ…、同じ年だったら、もっとずっと、一緒にいれたかな?ハルカ君のこと、どれだけ想っててもよかったのかな?…っ、なんで、なんで皆、」
どうしたら、よかったんだろう。
例えば同い年くらいであればよかっただろうか。
それとも、結婚でもできていればよかったのだろうか。
亡き夫を想う妻ならば、それは許されたのだろうか。
大切な人を失ってもなお、その想いが消えないのは同じなのに。
この4年間で、もう何度聞いたか分からない。
"若いんだから、新しい出会いがあるよ"
「…っ、お願い、まだっ…」
どうして、この場所で、ひっそりと想いを伝えているんだろう。
悔しくて、苦しくて、涙が出る。
悲しくて、寂しくて、胸が痛い。
墓前で涙する和を、訝しむ人はいない。だけど、和が春佳を偲ぶことを、誰も望んでいない。
その事実が、あまりにも辛かった。
忘れたくない。想っていたい。
新しい出会いなんかいらない。
雨が冷たい。でも、それ以上に心が痛い。
ただ、会いたい。

