ブーブーという古臭いブザーの音がなるチャイムを鳴らすと、中から綺麗なお姉さんが出迎える。
「おはようございます。お世話になっております」
バッグを両手で持ち直して丁寧にお辞儀をする。
「お世話になっております、本崎先生。ミーティングルームへどうぞ」
ビル自体は古いけれど、中はテナントが入るたびに改装されているので綺麗だ。
ザ・デザイナーズといった雰囲気の白を基調としたオフィスを横目に、奥の部屋に入る。
どうせ一番乗りだとは思っていたが、案の定だ。
「お待たせしてすみません」
「おはようございます、石川さん」
少しして入ってきたのはこのデザイン事務所の取締役で、共同経営者の石川だ。
「田上さん、少し遅れるって」
「最初からそのつもりだったので、大丈夫です」
だよね。と笑う顔は爽やかで、さすが各誌で
"イケメンデザイナー 笑顔の貴公子"
などという恥ずかしいキャッチフレーズを付けられていない。
「石川さん、今日の約束、忘れてないですよね?」
パーマのかかった髪をオールバックにしたいかにもビジネスマンな石川の顔を、和(かず)は縋るように見上げた。
「和ちゃんの頼みは断れないよ。大丈夫、俺が全面的に許可します」
「ありがとうございます!」
思わずガッツポーズをしたいのを抑えて、笑顔で頭を下げるだけに留める。

