「今、彼女結構しんどいはずなんだよ。今日も淡々としゃべってはいたけど、大分来てる感じだったし。だからお前の絵で元気が出るなら描いてやってほしいとも思ったけど、それをお前に無理強いするもの違うしな」
忘れてくれ。と言って、石川がコーヒーを飲む。
引っかかる部分が、いくつもある。それでも、それを口にするには、宮前と和の接点は少なすぎる。
疲れているせいで、頭が上手く働かないのもある。
「ハルカ君って、先輩分かりますか」
自分が発した言葉で、ここまで他人の表情が変わるのかと思った。
いつも爽やか過ぎて胡散臭いくらいの笑顔をたたえている顔が、まるで怖いものでもみたかのようだ。
驚きで目を見開いた石川が「なんでそれを」と小さく呟いた。
「この間話してる時、彼女が何度か口にしていて」
てっきり、恋人かと思っていた。
絵本を広げながら、和はその本への思い入れを嬉しそうに語っていた。その中で出てきていたのが"ハルカ君"だ。
絵本を作る約束をしている大切な人とはその人だろうと、会話の流れで容易に想像できた。
石川はしばらく考えて、そして立ち上がる。
先ほどのように棚から1冊の本を持って戻ってくる。
「これ」
差し出されたのは、絵本だ。淡い色合いの花が描かれた、シンプルな装丁。
「はなの はる。本名、花野春佳。優しい絵を描く絵本作家だったよ。俺もずっと手伝ってた」
石川の言葉に、表紙を眺めていた靄前が弾かれたように顔を上げる。
言葉の違和感に、石川の声のトーンに、前野は背筋が冷える思いだった。
「4年前、事故で死んだ、和ちゃんの大切な人ってのはこいつだよ」
忘れてくれ。と言って、石川がコーヒーを飲む。
引っかかる部分が、いくつもある。それでも、それを口にするには、宮前と和の接点は少なすぎる。
疲れているせいで、頭が上手く働かないのもある。
「ハルカ君って、先輩分かりますか」
自分が発した言葉で、ここまで他人の表情が変わるのかと思った。
いつも爽やか過ぎて胡散臭いくらいの笑顔をたたえている顔が、まるで怖いものでもみたかのようだ。
驚きで目を見開いた石川が「なんでそれを」と小さく呟いた。
「この間話してる時、彼女が何度か口にしていて」
てっきり、恋人かと思っていた。
絵本を広げながら、和はその本への思い入れを嬉しそうに語っていた。その中で出てきていたのが"ハルカ君"だ。
絵本を作る約束をしている大切な人とはその人だろうと、会話の流れで容易に想像できた。
石川はしばらく考えて、そして立ち上がる。
先ほどのように棚から1冊の本を持って戻ってくる。
「これ」
差し出されたのは、絵本だ。淡い色合いの花が描かれた、シンプルな装丁。
「はなの はる。本名、花野春佳。優しい絵を描く絵本作家だったよ。俺もずっと手伝ってた」
石川の言葉に、表紙を眺めていた靄前が弾かれたように顔を上げる。
言葉の違和感に、石川の声のトーンに、前野は背筋が冷える思いだった。
「4年前、事故で死んだ、和ちゃんの大切な人ってのはこいつだよ」

