小さくそう返事をするのが精一杯だった。

そんな和の反応も百恵は予想できていた。


まだ幼さを残す高校生の頃から、和は春佳に会いに度々家に訪れていた。

週末なんて店が忙しい百恵の代わりに食事を作ったりしていた。


春佳を慕っていることを隠すこそもせず、和は家に馴染むほどに顔を出していた。

その期間はたった3年足らずだったのに、その頃の思い出は百恵にとっても鮮やかで色濃く残っている。


訪れる回数こそ減ったが、和は今でも百恵にとって大切な子だ。

彼女が来ると、春佳の笑い声が聞こえるような気さえする。


「じゃあ、お墓参りできるのも、今年まで…って、ことですよね」


俯いていた和が、手の中のカップに再び口をつけた。

半分ほど余っていた紅茶を一気に飲み干す。


「ハルカ君のところ、行ってきます」

「あ、ええ」

立ち上がった和に続いて、百恵も廊下に出る。

「和ちゃん、今までありがとうね」

玄関でパンプスを履いていた和の背中に、百恵が声をかけた。

「和ちゃんはまだ若いし、きっと、これから素敵な人が現れるわ。あんな子だったけど、私の自慢の子だったから、和ちゃんが好きなってくれたの、本当に嬉しかったわ。まだ少しだけど時間はあるし、いつでも来てね」

もちろん。と、和は振り返って笑顔でお辞儀をして百恵の家を出た。



祖父母の墓とそう遠くない距離にあるお寺の一角。

小ぶりで新しいそれは、百恵が春佳の為だけに建てたものだが、これもあと半年ほどで無用の長物になる。

足が重たい。

薄暗くなりぼんやりとしか見えない墓石の前で、和は声すら出さずに静かに涙を流し続けた。