ひとしきり近況報告が終わる頃に、紅茶のいい香りが漂ってきて和が振り返った。


「ケーキをいただいたんだけど、食べ切れそうにないのよ」

紅茶とチーズスフレに和が笑顔を見せる。

黒いワンピースは質も形もいいもので、和の白い肌をより際立たせている。

おろした髪をさらりと耳にかける仕草は、百恵が最初に和に会ったころよりもずっと大人っぽくなった。


なんだか少し切なそうな笑みを浮かべた百恵に、和が首をかしげた。

「どうかしましたか?」
「ううん。和ちゃん、綺麗になったわよね」

思わぬ言葉に、目が点になる。

「もともと可愛い顔してたけど、ぐっと綺麗になった感じ。いいわねえ、女の子はこういう成長の楽しみ方もできて」

「ど、どうしたんですか、急に。びっくりするなあ、もう」

和があわてたように紅茶のカップに口をつけた。

「初めて会ったとき、高校1年生だったっけ」
「誕生日まだだったから、15歳でしたね」
「それがもう成人しちゃって、今じゃ女流ミステリー作家だものね」
「作家って・・・ハルカ君だって絵本作家じゃないですか」

百恵にとってはそんなに物珍しい職業でもないだろうに。

編集者やデザイナーが度々出入りする環境にあったのだから。


「そうね。まさか、自分の息子がそういう職業に就くとは思ってなかったわねえ」

今日は朝から墓参りや来客対応が続いたせいで百恵の顔に少し疲れが見える。
訪れる人々との愛息子の思い出話は、懐かしいのと同時にひどく切ない気分にさせられる。


あの笑顔がもう写真でしか見られないという実感が、最も押し寄せてくるのが毎年この日だ。

「そういえば、庭の桜、どうかしたんですか?」

唐突な和の言葉に、伏せていた百恵の瞳が大きく開いた。

「あ、ええ。少し大きくなり過ぎたし世話も大変だから、知り合いに譲ったの」
「そうなんですか。来年の春は少し寂しくなりますね。でも、掃除は少し楽なるかもしれないですけど」