街中の桜は残らず散っているのに、この辺りはまだ山桜のおかげで葉桜を保っている。
緑一面になる前のその淡い風景を見ると、自然と頬が緩む
「ああ、やっぱり。和ちゃん、待ってたのよ」
塀の内側から、白いシャツが眩しい笑顔の優しい女性が顔をだした。
「お久しぶりです」
「久しぶり。忙しいのに、悪いわね」
「なんでですか。私が来たくて来てるのに」
和がそう言って笑うと、花野百恵は少し眉を下げて微笑んだ。
店ではなく家の玄関から入っても、花野家は草花の香りが自然に漂ってくる。
芳香剤など使っていない、生花特有の少し青っぽい花の香りがいたるところに染み付いているのだ。
黒いストッキングを履いた足で古い床を踏みしめて、リビングダイニングの奥にある和室へ真っ先に向かう。
赤茶っぽい光沢のある仏壇が、古い家屋によく合っている。
両脇に飾られた花は、一般的な仏花ではなく、常に季節のものを取り揃えた華やかなものを百恵が選んでいる。
今日は色とりどりのコスモス。それらの隣にいくか白い花瓶にはいった花たちが生けられている。
百恵が用意したコスモス以外は、来客からの花束をひとつひとつ丁寧に生けているものだ。
「久しぶり、ハルカ君。今日、お客さん多くて大変だったでしょ」
くすくすと笑いながら、仏壇の前の座布団に正座をする。
慣れた手つきで線香をあげて、手を合わせながらいつものように会話をする。
「今ね、田上さんと石川さんと仕事の話が出てるの。田上さんてば、昔のプロットとか持ち出してきて、石川さんにも読まれちゃった。けど、石川さんとの仕事だし、私もがんばらないとだよね」
ちょっと澄ました笑顔が、線香の煙で僅かに白んでいる。
和の見慣れている笑顔よりもずっと余所行きのそれは、写真を撮るときはいつも目をつぶっているか大爆笑をしているという問題に直面していた百恵に、田上が提案した著者近影用の一枚だ。
緑一面になる前のその淡い風景を見ると、自然と頬が緩む
「ああ、やっぱり。和ちゃん、待ってたのよ」
塀の内側から、白いシャツが眩しい笑顔の優しい女性が顔をだした。
「お久しぶりです」
「久しぶり。忙しいのに、悪いわね」
「なんでですか。私が来たくて来てるのに」
和がそう言って笑うと、花野百恵は少し眉を下げて微笑んだ。
店ではなく家の玄関から入っても、花野家は草花の香りが自然に漂ってくる。
芳香剤など使っていない、生花特有の少し青っぽい花の香りがいたるところに染み付いているのだ。
黒いストッキングを履いた足で古い床を踏みしめて、リビングダイニングの奥にある和室へ真っ先に向かう。
赤茶っぽい光沢のある仏壇が、古い家屋によく合っている。
両脇に飾られた花は、一般的な仏花ではなく、常に季節のものを取り揃えた華やかなものを百恵が選んでいる。
今日は色とりどりのコスモス。それらの隣にいくか白い花瓶にはいった花たちが生けられている。
百恵が用意したコスモス以外は、来客からの花束をひとつひとつ丁寧に生けているものだ。
「久しぶり、ハルカ君。今日、お客さん多くて大変だったでしょ」
くすくすと笑いながら、仏壇の前の座布団に正座をする。
慣れた手つきで線香をあげて、手を合わせながらいつものように会話をする。
「今ね、田上さんと石川さんと仕事の話が出てるの。田上さんてば、昔のプロットとか持ち出してきて、石川さんにも読まれちゃった。けど、石川さんとの仕事だし、私もがんばらないとだよね」
ちょっと澄ました笑顔が、線香の煙で僅かに白んでいる。
和の見慣れている笑顔よりもずっと余所行きのそれは、写真を撮るときはいつも目をつぶっているか大爆笑をしているという問題に直面していた百恵に、田上が提案した著者近影用の一枚だ。

