4/28 -サクラソウ- 花のような君に贈る想い

それが終わり、管理事務所に桶を返したところで、前から走ってくる人を見つけた。


「どうしたんですか?」

その男は、花屋で桜を掃いていた男だ。

「よかった、まだいて。いやさ、お袋がお釣り渡し忘れたって、これ」

渡された封筒からは、チャリチャリと小銭の音がする。
和もすっかり失念していたつり銭の存在に、少し反応が遅れた。

「え、わざわざこのために?ごめんなさい!」
「ああ、いやいや。お袋のミスだし、よかったよ本当に、間に合って」
「・・・って、あれ、もしかして、絵本作家の息子さんって?」
「なんだ、そんな話をしてお釣り渡し忘れたのか、お袋は」

ちょっと呆れ顔で溜息をつく。

「あ、あのっ、もしかして、はなのはる さん、ですか?」

男の目がくりっと丸くなる。可愛い系の顔が、驚くとさらに引き立つ。

「ほしのアジサイ、私、大好きで」

そう言うと、男は「まじで?」と照れたように顔をほころばせる。

「よかった、知ってる人で。結構知らなくて恥かくんだよ、作家ってさ」

本屋や図書館は用がなくても長居をするタイプの和は、作家の名前に明るい。

それがさらに賞など取っていれば、ポップなどでも大きく名前を見ているものだから当然のように覚えていた。


そしてなにより、和はその絵本を持っている。


「は、はじめてお会いしました、本物の作家さん」
「まあ、べつに芸能人でもないし顔なんか出ないからね、普通。お墓参りは終わったの?」

花束を持っていない和に、はなのは首をかしげる。

「はい。今終わったところです」
「駅まで送ろうか。車で来てるし、ここからだと少し歩くだろ」
「あ、いえ、そんな言うほどではないですし」
「そう?どうせ方向同じだし、商店街くらいまでは乗っていったら?昼飯まだなら、商店街でどっかよってから帰るのもいいよ。廃れて見えるけど、最近ちょっとずつお客さん戻ってきてるしいい所だから」


多分その時、思わず助手席に乗り込んでしまったのは、返事のない祖父母に会った直後だったからなのかもしれないし、本当は行きしなの迷子で体が疲れていたからなのかもしれない。


だけどそれより何よりも、毒のない、明るくて、優しいその笑顔が、和は恋しかったのだ。