迷って時間をロスしたことも、携帯電話が使えなくて少し途方にくれていたことも忘れるくらいに、和は上機嫌で霊園に向かう。

和の母方の祖父母は、優しく、穏やかだった。

スポーツ一家である和の家は、子供の頃のレジャーもスポーツや体を動かすものが多かった。
運動の適正というよりも、体を動かすこと自体が好きではなかった和は、父親があまり寄り付かない祖父母の元へ逃げ込むことが多かった。

読書や、料理が趣味の祖母は、遊びに来ては祖父と本を読む和を可愛がってくれた。
和が10歳になることに祖父が亡くなり、中学にあがってすぐに祖母も旅立った。


母方の実家の墓は、家から3駅先の小山の霊園。

祖父母の前の祖先も眠るそこは、祖父の葬儀の時に初めて訪れ、それから4年間は度々訪れる場所となった。


「おばあちゃん、おじいちゃん、来たよ」


薄い灰色の墓石の前で呟き、買ったばかりの花束を崩して花立に移しかえる。

先月来た時にさした花をよけて、水をいれかえる。

慣れた手つきで掃除をし終えて、ひとしきり手を合わせて心の中で言葉を紡いで立ち上がる。

月命日前後には必ず参って近況を報告する。
特別なことはなくて、ただ、いつも話していたような日々のことを話す。