「いらっしゃいませ。百合の花束なんだけど、包装はどうしますか?」
「あ、簡単で構いません。すぐに移し変えるので」
「もしかして、お供え用?」

なにせ駅と霊園の間だ。珍しいことではないのだろう。
頷くと、女性は頷いてセロファンの上に百合をまとめていく。

いつの間にか、先ほどの男の人はいなくなっていた。


「駅から少し歩いたでしょう?西口から出るとすぐ分かるんだけど、東口から出ると遠回りになっちゃうのよ」
「そうだったんですか」
「はい。お待たせしました」

大きな花弁のついた、優雅な百合。
つぼみや葉っぱも、僅かな茎でもボリュームが大きい。そんな百合を手早くまとめて、白と青の包装紙にセロファンが丸いシールで止められている。

可愛らしい、雫と傘がモチーフのイラストが施されている。


「可愛い。お店のロゴですか?」
「ええ。息子が描いているのよ」
「息子さんが?イラストレーターさんか何かですか?」
「似たようなものね。絵本作家なのよ、うちの子」
「絵本作家さんなんですか?素敵ですね」

お会計をしながらそんなことを話していると、レジの周りにあるポップやリーフレットにもロゴやモチーフの雫、それから花屋らしく花をあしらったイラストが多く描かれている。

どれも、統一されたクレヨンやクーピーなどの風合いだ。

(あれ、もしかして、これ)

引っかかるものが合ったけれど、さすがに口には出せずにほんの少しのワクワク感だけを胸にとどめる。

「いいですね。私、絵が下手だからこういうのうらやましくて」
「私もなのよ。だからまさか息子が絵本作家だなんて夢にも思わなかったわ」

優しそうな笑みの女性が、おまけに、と、ジャスミンの香りのポプリをくれた。良くみかけるジャスミンティーとはまた違う、上品なハーブのような花の香り。

「霊園に行くなら、左を真っ直ぐが近いから。是非また、いらしてね」

店先まで送ってもらい、和が深々と頭を下げる。