部屋まで送りますと言われて、激痛で涙目になっていた和は藁にもすがる気分だった。

宮前は車を隣のパーキングに停めなおし、片足でふんばっている和に肩を貸し、4階の部屋まで運んでくれた。

「ありがとうございます…」

久しぶりに怪我らしい怪我をしたせいで、すっかり意気消沈の和は、引きずられるように玄関の上り框に座った。

「…本崎先生」
「はい?」
「この部屋、本気ですか」

宮前の視線が部屋の奥に向けられていることに気がつき、和は思わず大きなため息をついた。

(編集さんしか来ないから忘れてた…)

広めの1DKの角部屋だ。
間取りも日当たりも良いほうだし、築浅で水周り設備もきれいだ。

使う人間がきちんと使えば、いい部屋なのだ。


廊下にまではみ出したブランケット。

あちこちに散らばった服なのかブランケットなのかわからない布の塊。

積み上げられた本と、紙の束。


足の踏み場もないとはこういうことだ。
ゴミ袋が溜まっていないだけで、汚部屋そのもの。

「…宮前さん?」

しまったと思っていると、玄関に立っていた宮前がギラっと和を見下ろした。


「失礼します」
「え?」

靴を脱いだかと思えば、すぐに左手にある洗面所の扉を開ける。

「え、ちょっと?」
「着替えは」
「はい?」
「ああ、絶対これだな。はい、とりあえず風呂入って。足は温めすぎないように、適度に避けること」

渡されたグレーのワンピースと緩めのスパッツ。それは確かに和の部屋着だ。

「じゃあ、ごゆっくり」

洗面所に無理やり押し込められると、部屋の方で人の足音とガサゴソという物音。

(なに?これ)

普段なら寝ている時間。
足の怪我。
少しだけ残ったアルコール。

「…シャワー浴びよう」

考えるのが面倒になって、和は投げやりに服を脱いだ。