タクシーに乗って、途中で降りたのは気まぐれだった。
酔っていたのだ、きっと。
家まで徒歩20分くらいのところで降りて、フラフラと歩く。
聞き飽きた耳障りな善意が、こびりついて離れない。
ぶんぶんと頭を振って払おうとしても、酔いがまわるだけで変わらない。
「おっ、わっ…」
足元の注意が散漫になり、僅かな段差に躓いて膝をつく。
幸い人通りは少ないが、それが余計に痛みを倍増させる。
酒は嫌いだ。
思考力が低下するから。
昔はもっと冷静で、現実的な性格だっはずなのに、酒が入ると変わってしまう。
「…痛いよ、ハルカ君」
痛い時に痛いだなんて、春佳にしか言えない。
寂しいも、辛いも、怖いも、春佳しか聞いてくれる人間はいなかった。
だから、助けを求めるなら、彼しかいないのに。
「…大丈夫ですか?」
低い声に、和はすっと意識が戻ってくるのを感じた。
現実が、ふいにやってくる。
「大丈夫ですので、お気になさら、ず…」
言いながら顔を上げて、中途半端な姿勢で止まってしまう。
「本当に大丈夫ですか、本崎先生」
「宮前さん…なんでこんなところに?」
手を差し出されて、一瞬迷って手を借りずに立ち上がろうとすると、左足に痛みが走る。
咄嗟に宮前が腕を掴み、結局引き上げられた。
「挫いたんでしょうね」
足元を見ても暗いだけで分からないが、その通りだろう。
「…みたいですね。タクシーをつかまえます」
降りなきゃよかった。
そう思いながら、和は大通りに体を向ける。
「送りますよ、車なんで」
「え?」
「印刷所の帰りなんです」
路肩の車を指さされるけれど、暗い上に車なんて詳しくない和にはこの間の車かどうか分からない。
「では、お言葉に甘えていいですか」
酔っていたのだ、きっと。
家まで徒歩20分くらいのところで降りて、フラフラと歩く。
聞き飽きた耳障りな善意が、こびりついて離れない。
ぶんぶんと頭を振って払おうとしても、酔いがまわるだけで変わらない。
「おっ、わっ…」
足元の注意が散漫になり、僅かな段差に躓いて膝をつく。
幸い人通りは少ないが、それが余計に痛みを倍増させる。
酒は嫌いだ。
思考力が低下するから。
昔はもっと冷静で、現実的な性格だっはずなのに、酒が入ると変わってしまう。
「…痛いよ、ハルカ君」
痛い時に痛いだなんて、春佳にしか言えない。
寂しいも、辛いも、怖いも、春佳しか聞いてくれる人間はいなかった。
だから、助けを求めるなら、彼しかいないのに。
「…大丈夫ですか?」
低い声に、和はすっと意識が戻ってくるのを感じた。
現実が、ふいにやってくる。
「大丈夫ですので、お気になさら、ず…」
言いながら顔を上げて、中途半端な姿勢で止まってしまう。
「本当に大丈夫ですか、本崎先生」
「宮前さん…なんでこんなところに?」
手を差し出されて、一瞬迷って手を借りずに立ち上がろうとすると、左足に痛みが走る。
咄嗟に宮前が腕を掴み、結局引き上げられた。
「挫いたんでしょうね」
足元を見ても暗いだけで分からないが、その通りだろう。
「…みたいですね。タクシーをつかまえます」
降りなきゃよかった。
そう思いながら、和は大通りに体を向ける。
「送りますよ、車なんで」
「え?」
「印刷所の帰りなんです」
路肩の車を指さされるけれど、暗い上に車なんて詳しくない和にはこの間の車かどうか分からない。
「では、お言葉に甘えていいですか」

