和がひと足先に、「眠い」と言って帰ると、居酒屋の座席は重苦しい空気から解放される。
「田上さん、なんであんなこと…和ちゃん、まだ花野のこと忘れられてないのに」
石川が深いため息とももに批難する。
「それに、誰かを好きになることに、若いとか若くないとな関係ないでしょうに」
「わーっかてるよ、そんなこたぁ」
「うわ、柄悪いな、もう」
ロックのいも焼酎を飲み干して、すかさずにお代わりを注文する。
「和がこのまま花野だけを想い続けるのは、花野がかわいそうだろ。あいつは、和が笑ってるのが好きだったんだ」
桜の花が見える和室で、無邪気に笑う和を春佳は愛おしそうに、たまに傍から見ていて恥ずかしいくらいに見つめていた。
誰かを、あんなに幸せそうに見ていられるものかと、感心してしまうほどに。
「俺は、2人が一緒にいるところを見てないんでなんとも言えませんけど…今はまだ、和ちゃんから花野を奪うのは」
亡くなって4年。
それが、たった、なのか、もう、なのか。体感期間はそれぞれだ。
しかし、和は今でも、まるで昨日会ってきたように春佳のことを話す。
「お前には話してなかったか…」
「何をです?」
「花野な、和が高校卒業したら、告白するっつてたんだよ」
「…え」
石川は、飲んでいたビールを思わずふきそうになった。
「いや、そもそも、本当に付き合ってなかったんですか」
「花野は、ああ見えてそういうところ真面目だったからな。和は分かりやすくつきまとってたけど、高校生にはって線引いてたんだよ」
見てるこっちがしんどかったけどな。
と、田上が心なしか砂糖を噛んだみたい顔をする。
「いや、話聞いてる限りもう完全に付き合ってるものだと…」
でも、それはもしかしたら。
「いっそ付き合ってた方が楽だったかもしれないですね」
「奇遇だな」
俺もそう思ってたよ、と、田上が切なげに呟いた。

