「こんな顔して、くまだのうさぎだののほのぼのした原稿読んでるんだからね」
「私が初めて会った時は、ここで紫が泣くのはおかしい!ピンクがかわいそうだ!って言いながら来ましたからね」
「あ?いや、あれはピンクがかわいそうだっただろ」
「確かにあれはローザがかわいそうでしたけど」
「あぁ、泣き虫ブラン?」
当時、田上が担当していた作家、はなの はる、本名"花野春佳"の絵本、「泣き虫ブラン」は、色んな色の星のキャラクターの絵本だ。
真っ白な星のブラン君に、みんなで色をつけようとするお話。
「ハルカ君、みんながローザに肩入れするから、ビオレがかわいそうだって言って、ストーリー全面差し替えてましたけどね」
春佳(はるよし)のことを、和は"ハルカ"と呼ぶ。
初めて名前を見た時、そう読んでしまって、もうどうしても印象が崩れなかったのだ。
春佳の名前を出すと、田上と石川がわずかに雰囲気を変えた。
和はそれに気づかずに、楽しそうに思い出話に花を咲かせる。

