「彼氏彼女なだけで一緒に住んでるっていうのは、ちょっと弱い理由じゃん」
「そうですか…?」
「結婚前提だから一緒に住んでるなら自然かなと」
結婚…婚約者…、美桜は次第に顔を火照らせる。
聞きなれない単語が自分の頭の中に振って来てパニックだ。
「どう?」
「どうって…」
この人はなぜこんな大胆な提案を平然としてくるのか。
やっぱり心がどこか欠落している。
普通の感覚でいたら、一緒に住むことも、嘘でも部下を婚約者にしてしまうことも、出来るわけがない。
「それが一番簡単な理由だよ」
そう言って司は甘い視線を向けてくる。
別に、本当に「婚約してください」と言われているわけでもないのに。
どうしてこんなにドキドキしてしまうのだろう。
司にとったら、この思いつきの悪戯に乗ってくれという気軽さなはずだ。
けれど、こうしてじっと見つめられていると、この案しかないような気になって来るから不思議だった。

