「えっ」
思わずカップを落としそうになる。
「へ、変なこと言わないでください」
カップを抱き締めたまま真っ赤になっていると。
「変なこと?」
「同棲じゃありません、同居です」
「何か違うの?」
司はきょとんとして問いかけてくる。
「全然ちがいますよ…その、体裁というか、気持ちとか」
ただ一緒に住むのと、想い合って暮らすのはまるで違う気がした。
上手く言えずに美桜は黙ったままコーヒーを淹れて、司に片方を渡す。
「俺たちが同居のつもりでも、周りはそう見るかなあ」
「会社にバレたら…ってことですか?」
それは美桜も気にしていた。
万が一会社に知られたらそれこそ大騒ぎになるに違いない。
仕事のために一緒に住んでいるという言い訳が通用するとは思えなかった。
「会社もだけど、ご近所とかね。美桜が出入りしていたら、そのうち噂になるだろうし」
「あ…そうですね」
「俺は気にしないけど、このマンション結構、家族世帯も多いからさ、近所の詮索好きな人も少なくないんだよね」
コーヒーに口を付けながら、司が言う。
「これまでもエレベーターで遭遇して、何の仕事してるんですかって何回か聞かれたよ」

