「あの…」


 その奇妙な光景に、美桜は聞かずにはいられなくなる。


「なに」


「それ、掃除機ですよね?」

「そうだよ」

「他に何に見えるんだよ」と彼は眉を寄せて言う。


 午前中の司は、やはり機嫌がよくないらしい。
 

 言われた通りの時間に来たのに…と、美桜は理不尽さを胸の底に押しやる。


「話しかけてましたよね」

「ああ」


「ていうか、名前があるんですか?」

「悪い?」


 司はますます眉間の色を濃くした。



 悪くはないが、電化製品に名前をつけるのは妙ではないか。


 美桜はやや首を捻って考える。


 一方の司は、ムーシュカと呼ばれたそれを見つめ、


「本当のペットより、よっぽど正確で従順だ」


「はぁ…」


「そう思うと愛着が沸く」


 生き物より、プログラミングされた機械に癒しを求めるとは。


 本気で変わっていて、けれどなぜか司らしいと思った。