瞬きする間もないほどのスピードで、唇がぶつかった。


「……っ」


 美桜は目を見開いたまま、その強いキスを受ける。

 息が出来ない。

 胸が詰まるようなこの感覚は何なんだろう。

 全身に電流が走ったようなショックで動けない。



「キスくらいで…」


 キスの隙間から、僅かに彼が囁く。

 吐息が唇にかかり、ほんの一瞬甘い空気が美桜の心をさらう。

 間近にある鋭い瞳に、心を奪われた。


「枯れるだの、絶望だの…そんなんで拭える絶望なら、易いもんだな」


 何か言い返したいのに、やっぱり声が出てこない。

 それほどに彼のオーラに圧倒される。



 軽く肩を押されて、距離を取られる。


「勝手にしろよ、面倒くさい」

 寒々しい視線が怖いのに、外せない。

 
 くるりと踵を返した彼は、何事もなかったかのようにその場を去っていった。