振りほどかなければと思うのに、しっかりと掴まれて敵わない。



「覚えてないとか、ありえない」

「……」



 もちろん、覚えている。


 あんな熱のこもったキスをしたのは初めてだった。

 思い出すと、すぐに心が高ぶるほど。



「思い出させるために、もう一度、しとこうか」


 そう低いトーンで言うと、司の指が美桜の顎をたどる。


 昨夜の手つきとそっくりなぞられて、ぞくっと背中が粟立つ。


 あっという間に飲み込まれる。


 小悪魔というより、悪魔そのものなんじゃないかとその雰囲気に酔わされる。


 ゆっくりと、司の綺麗な顔が近づいてきたとき、




「おっ、覚えてます…っ」


 美桜はぎゅっと目を閉じて言った。


 すると、司の指がするりと離れる。


 静かに目を開くと、目の前にニヤとした司の含み笑みがあった。


「……っ」


 また空気が変わっている。



 からかわれていただけ?
 

 司は美桜の唇を指先で触れた。



「最初からそう言えよ」


 男性的な口調と微笑に、司独特の色気を感じた。



 どうしても抗えない魅力。

 静かにそして力強く、その魔法に飲み込まれて行くのを感じていた。