昨日と同じ姿だが、少し眠たげな目が、無造作な前髪の隙間から覗く。
「よく眠れた?」
軽い欠伸を漏らしつつ、司はキッチンに向かいケトルに水を注ぐ。
「あの…私…昨夜は」
起きたての頭では上手く言葉が続かない。
一体何があったのか、聞きたいような怖いような。
「なんだ、覚えてないの? あんなに愛し合ったのに」
「え……っ」
司の言葉に美桜は一瞬にして耳まで赤くなる。
全く身に覚えがない、と美桜は反射的に自分の身を抱き締めた。
キスしたところで、魔法にかかってしまったように、そこから先の記憶が消えている。
そんな美桜の反応に、司はくすくすと笑い、
「冗談だよ、何もしてない」
楽し気に言うと、静かな手つきでコーヒーを淹れ始めた。
「ちょっと飲みすぎてたのか、眠っちゃったからそのまま寝かせといた」
「…なんだ、驚かせないでください」
ほっと胸をなでおろすと同時に、腕時計を見やり。
「えっ、8時…? どうしよう、仕事…っ」
思わず立ち上がり、おろおろと周りを見渡した。
急いで支度をしなければと慌てていると、コーヒーカップを2つ持った司がこちらへやってくる。
「騒がしいな」
「だって、遅刻しちゃうじゃないですか」
「今日は何曜日」
はいどーぞ、と司はコーヒーを片方美桜に渡す。
「あ……」
今日が休日だということに気付いて、美桜は脱力し再びソファに沈む。
隣の司は、しれっとした顔でコーヒーを啜った。
「仕事だったら起こすよ」
「本当ですか」
「ほっといて出社するほど意地悪じゃない」
「……」
「何、その目」
司ならそんなことだってやりかねないと疑惑の視線で見る。
女の子を泊めておいて何もなかった、という言葉さえ本当なのかと疑ってしまう。
飲んでいたせいで記憶がないのだ、何かあっても不思議ではない。

